名誉院長のブログPage4


名誉院長

名誉院長からのメッセージ

 

歯科衛生士

名誉院長からのメッセージ バックナンバー 《31~40》


40.《後藤歯科医院の医療安全の考え方》
39.《時代の変化と歯科医療》
38.《紺屋の白袴》
37.《孫からの質問》
36.《防災ヘリの墜落》
35.《スマップと歯科医療》
34.《咬合と脳》
33.《フィリピンの子供と、日本の子供》
32.《インプラントと部分床義歯》
31《カニの足と歯》


<<《Vol 41~Vol 50》   ⦅Vol21~Vol30⦆>>


Vol 40 《後藤歯科医院の医療安全の考え方》


 医療安全を考える場合、先ず、医師、歯科医師の仕事について話を始めないと理解するのが難しいと思います。医療行為に従事する全ての仕事は、警察官、自衛官などと同様にとても危険な職業ということです。

 以前、ある患者さんの祖父が歯科医師で、明治時代の歯科医師制度が出来たばかりの歯科医師免許のコピーをいただきました。その時に患者さん曰く、私は歯科医師になる予定でしたが父親が患者さんから病気をもらい、短命に終わるから歯科医師になってはいけないと言われたそうです。その方の祖父は結核に犯され早死にしたそうです。また、産婦人科医も出産時に大量の血を浴びて、肝炎になって早死にした人が大勢います。私の叔母も産婆さんをしていたので小さいときから身近で話を聞いていたので理解できます。代表的な例として、野口英世も研究途中で患者さんからの病気で亡くなっています。昔から患者さんを親身に治療した多くの無名な優秀な医者が犠牲になっています。

 さて、医療を安全に行うと、一言で言うには政治家のキャッチフレーズ同様簡単ではありません。なぜなら、患者さんの眼に映る医療安全の概念は、全体からすると一割に満たないと思います。したがって、マスコミの報道する内容はこの一割程度と解釈しています。実は残りの9割がものすごく多くの難しい問題を含んでいます。ですから、その分野の学会があるわけです。 日赤の救急救命の講習会では人命救助は、知識のない素人は自分の身の安全を確保できないときには、してはいけないと断言しています。ですから残念ながら毎年多くの犠牲者がでているようです。歯科医療も転職して長年携わってきましたが、多くの患者さんにレントゲンを使い説明をすると、虫歯、歯周病を病気と思っている人が非常に少ないことに驚かされます。口の近くの鼻の頭が溶けたら大騒ぎするのに、こんなに価値観が異なるものかといつも驚いています。この病気という概念のすくない疾病に立ち向かい、経営して感ずるには、安全のために多額の投資が必要で、それは、医療収入とは反対のベクトルが生ずるからです。ですから見えない部分の医療安全は二の次に・・という悪魔のささやきか想像できますよね!!
 しかし、水俣病に代表されるように後で問題が発生します。これらの知識を診療に生かすには、個人的な意見として、歯科以外の知識も多く必要です。

 以前に会社の衛生コンサルタントの試験にチャレンジして多くのことを学びました。  それは資格を取るのが目的ではなく、院内の今まで気づかない部分にそのノウハウを活用するためです。それには、設備だけでなくスタッフ教育が最も大切です。また、業界の出版社の依頼で2年ほど歯科界に材料、器具を提供する会社のレポートを書く機会がありました。そこで医療安全の多くのヒントを得て現在実行しています。それらは、コンピュータの力を借りないとできません。長年にわたり、医療安全のシステムを構築してきました。

 以前に神奈川県で発表、そこに参加していた国の研究員の目に止まり、後日院内の取材に来て、そのレポートは国に報告されました。それがきっかけで、県の歯科医師会、また、セコムからの依頼で、新宿の本社の大きな会議室でセコム関係の病院の担当者に話をする機会を得ました。院内では歯科医院ではとても珍しい、中央消毒室を備え、スタッフを雇い、器具によって、色々な消毒、滅菌を行っています。また、新人スタッフには個別で指導し、毎週院内のランチョンミーティングで徹底させています。

 昔、ある衛生士が他のところで院内のシステムを発表したときに他の医院のスタッフから、なぜそんなに厳密にやるのか、そんなことができるのか?むしろ批判めいた意見を言われたそうです。発表したスタッフが逆に驚いて帰ってきました。実はこの目に見えない部分の対策は、ものすごくお金が必要です。ひたすら院内の経営努力にかかっています。
 見た目より中身が大事です。
この目に見えない後藤歯科医院の努力が、多くの患者さん、スタッフ自身の安全に繋がっています。如いては、きちんとした治療を行うことができ、噛めることで患者さん自身の病気に対する抵抗力があがり、その結果、健康寿命にも多大に影響するのです。


先頭に戻る



Vol 39 《時代の変化と歯科医療》


 最近の時代の変化はめまぐるしく、新しい電化製品も車もスマホもすぐに時代遅れの感があります。昔賑わいを見せた駅の周りも人の流れが変わり商店街がシャッターになり時代の変化の速さを感じます。
 我々歯科界も昔は、歯科医師が少なく、患者さんが待合室にあふれている時代がありました。その時に行われた治療は殆どが応急処置のみ程度、物理的に無理でした。
ところが、現在は歯科医師が増え、真の医療としての歯科医療を出来る環境になりました。  しかし、歯科界の考え方の基本は昔のままの様です。
 歯科医師会の雑誌の中で、「10年後の歯科医療を考える」という特集の中で歯科医療は歴史的に、失った歯を補うものとして進歩してきたが、近年歯を保存するための治療技術が進歩した。という記述があります。この文章の中にある近年という事は、これを実行する歯科医師は少ないと解釈できます。

歯の保存を試みると今までの制度、常識に抵触することになり、臨床の最前線での活動には多くの抵抗があることは容易に想像がつくと思います。
 後藤歯科医院も、まさにこの問題に開業以来、四つに取り組み、院内のシステムを構築してきました。それは、歯科以外の分野から参入した人間として、とてもやりがいのある仕事ではありますが、とてもストレスが多いことも事実です。
 スタッフの求人では歯科助手では法律的に仕事が不可能なので正規の資格を持つ衛生士の確保、技工物も下請けに出すとチェアーサイドで技工士と相談をすることが出来ず、技工士の確保は歯科医院の生命線になります。この衛生士、技工士は、就職率より離職率が高いようです。その中で、最近技工専門学校の伝統校が閉鎖の様です。個人的に考察するに、資格を取るのにかかった費用・時間に対して、就職してから本人の能力を発揮できず、離職する人が多いように感じます。原因は、古いやり方ではスタッフの能力を発揮しづらいシステムにあるようです。 
 それに比較して当医院のスタッフは、週休二日制で余暇を充分楽しみながら、仕事の方も、衛生士・技工士はそれぞれの部屋を持ち、自分たちのアイディアをコンピュータ等で大いに発揮できるので、衛生士の場合は、産休、育休を経て子育てをしながら、又は、子育てのめどがついた時点でのカムバック組が多いです。
技工士も、定年退職まで仕事を楽しみ、又、自分の興味で残る以外は殆ど定時で帰宅、自分の生活を楽しんでいます。その上、機能咬合器を駆使して高度な技工の仕事を楽しんでいます。

 当院の場所は駅から離れていて、決して良くないのですが、これらを可能にしているのはシステム工学を応用した、目に見えないノウハウと裏で動くコンピュータの活用に依るものが大きいです。それは、時代のかなり先端を走っている証拠だと確信しています。
 しかし、これらのシステムを作るのに膨大な時間と、ノウハウを身に付ける必要があります。これから勉強する歯科医師はすでにシステムが存在するので、出来る歯科医師について無駄なく、効率よく習得が可能です。講習会等だけで簡単に習得は不可能です。今まで私が経験したような時間と、労力を使わなくてできることを最近確信しています。
「興味のある方は是非見学を!!」
 先日中国から歯科大学を卒業した歯科医師が2名見学に見えました。とても興味を持ち、できたらここで勉強したいという話を聞くにつけ、国内から見学者がいないのは残念に思いました。

 世間の時代の変化は早いが、歯科界は変化がゆっくりで勝負できるチャンスが他の業界より多くあります。思考の軸を変えると、ゲームするよりアマゾンに探検に行くより面白いです。電気関係より転職した、少し古くなった歯科医師よりの提言です



先頭に戻る



Vol 38 《紺屋の白袴》


最近歯が痛くなり、院内で治療を受ける羽目になりました。お恥ずかしい話ですが、長い間自分の歯は問題ないと思い込んでいました。歯が痛くなると、上が痛いのか下が痛いのか、全く自分では分からず、後藤歯科の医局員に診てもらいました。この症状は、もしトレーニングを積んでいない歯科医師なら、まず完璧に誤診をしたものと確信しています。

 その時は本当にいろいろな症状が出ました。あえてここでは記載しません。なぜなら、それらの症状で通常は歯科医院に来ないからです。それらのケースは普段、脳外科、内科、整体師のところに行っているそうです。こられの症状は、歯とは関係ないと歯科界の常識に一括されそうだからです。結局歯髄炎を起し、根管治療をする羽目になりました。
治療を受けて、改めて根管治療がいかに大変で、また保険の評価が低いこと、そのため歯科医師が歯を残す意欲を阻害していることも実感しました。
先日行った中国、成都の友人の歯科医師よりはるかに低いことも判明。

 治療後、歯の土台をつくってもらい現在そのままになっています。実験的にしばらく放置、それが原因で口の中の全体の噛みあわせが狂い、反対側の歯肉がはがれ炎症。その症状はなかなか消失しませんでした。時間が経つにつれて体が今の噛みあわせに合わせて噛むことを経験、人間の適応能力の高さを実感しました。時間とともに症状を感じなくなり、噛むときも変な噛み方をしていましたがそれもだんだんと感じなくなってきました。
 これらの状態は、歯科医学的にはとても危険な状態です。しかし、患者さんは時間と共に痛みに慣れてしまうため、ある程度歯が無くなると、同様なケースを繰り返し抜歯のスピードが上がることも自分の経験から推察することが出来ました。いつまでもこのようなテストをする訳には行きませんが、これらの症状が減ってくることに対する患者さんへの説明は本当に難しいことも実感しました。ですから、いつも痛い歯のみ治療すると40代から歯の数が減ることも、長年最前線での臨床経験と、膨大な患者さんのPCのビッグデータからよく理解できました。
これらの説明をするには、やはり後藤歯科で長年にわたり作ってきたコンピュータのソフトがいかに役に立つかも再確認しました。

 今まで数多くの医局員に教育をしてきましたが、これまで以上に基本に還り、新人の歯科医師にこれらの教育をする必要性を実感しました。
 しかし、これらの現象を歯科医師に教えるには、自分の経験から、マンツーマンで教えないと理解できない事、また、当医院の医局員から治療を受けて自分が教育を行ってきた方針が間違ではない事を確信しました。

 このような文章を書いた後に、とても言いづらいのですが、定期的に健診を受けレントゲンを撮り、検査されけることをお勧めします。



先頭に戻る



Vol 37 《孫からの質問》


 医療とは何だろう?インターネットを調べると、いろいろ書いてあるようですが、私の個人的な意見では、一言で言うなら、人間の不老不死だと思います。
大昔から王様は、エジプトのフアラオ、中国の秦の始皇帝などに代表されるように、不老不死を願って色々なことをしたようです。しかし人間には誰にも等しく死が訪れます。
つまり、不老不死ではなく最近高齢化社会で言われる、健康寿命(QOL)が長いのが結局目的になると解釈しても良いかと思います。ではこれらを阻害する因子は?事故、殺人、病気、等が思いつきます。

 では、それらをそっくり、歯科医療に当てはめて考えてみましょう。歯牙を失う要素は、事故による外傷、ムシバ、歯周病、等ほとんどが原因と言っても良いかと思います。なぜなら、歯の老衰という問題は国家試験にも出題されないようです。
 歯科医師にとっての目的は歯牙の不老不死、いわゆる、天寿を全うするまで親からもらった歯牙を機能させれば、まあ歯科医師としての使命を果たしたことになると思います。
 また、それは健康寿命に大いに寄与することは、長年の臨床で、膨大なデータをコンピュタで蓄積していると実感できます。

【歯科医師の目標を一言で言うなら、歯を抜かないという事です。】
 そこで、最近の歯科事情です。日本には30近い歯科医師を教育する大学があります。
そして、夢と希望を持って歯科医師になりたい多くの若者が歯科医師を目指します。
しかし、歯科医師過剰?で試験が厳しくなり国家試験の合格率が下がっています。また、歯科大学は、合格率を上げるために、6年間勉強したにもかかわらず卒業させずに、国家試験を受ける人を学校によっては半分くらいにしているようです。その結果、歯科の分野を志した学生の、おおよそ2分の1程度しか、歯科医師になれない現状が起こっています。
そのため何人も代診を使っている歯科医師が皆、歯科医師不足を言っています。歯科医師の求人もうなぎ上りです。当医院も同じような悩みを抱えています。

 卒業できない、試験に合格できない学生は、どうするのかと人材の無駄遣いを経営者として考えさせられます。なぜなら日本は現在あらゆる分野で人手不足だからです。
 そしてめでたく国家試験に受かって後藤歯科に見学に来た、数少ない人に、開業当時から当医院独特の国家試験ならぬ、ある試験をしています。それは、顎全体を撮った1枚のレントゲンを見せて、このレントゲンの中で、一番おかしなものを一つ上げなさい。  と言うと、今までに、歯が無いことを最初にあげた人は一人もいませんでした。
これは、友人の脳外科医から指摘されるように歯科医療は歯を抜いた後どうするかという学問だと言われても仕方がないと思います。しかし、昔は歯科医師が少なく、患者さんが多い時代で、歯を残すのは発展途上国のように難しかったと思います。そして保険制度もそれがベースになっています。しかし、時代が大きく変わりました。

最近幼稚園の孫が、ナンデダロウ、ナンデダロウ、と踊りながら質問してきます。幼稚園の生徒に指紋を手前にして指を曲げて、何がおかしいのか?と質問すると、指が途中から無いことを直ちに指摘します。そのうちに、ナンデダロウ、ナンデダロウ、歯医者が多いのに、歯が無くなるのはナンデダロウ、ナンデダロウ、と質問が来そうです。
 長い間、最前線で歯科の臨床に携わり経験したおかげで、未だに歯が無いことに疑問を持たない事実など、孫からの質問に自信を持って説明できそうです。



先頭に戻る



Vol 36 《防災ヘリの墜落》


 先日防災ヘリが墜落して乗組員全員が死亡した。山岳遭難救助の訓練中に事故が起きたようである。事故は今まで想定していない状況で起こったものと思われる。
 現在地球は世界的な規模で変化が起きているようで、海面の上昇やら地下のマグマの活発化、また隕石、太陽爆発による太陽風の遭遇の可能性の増加等が挙げられる。今回のヘリも今までにない気流の変化に遭遇したかもしれないが専門外なのでなんともいえません。
 しかし、乗組員全員は色々な分野の専門家で、そこまで成長するのに、大変な時間と経験を積んだ人々ばかりと推察します。
ヘリの機体は新しくすることが可能ですが、搭乗者のスキルは講習会では絶対身に着けることができない、お金で買えないものがあり本当に惜しい人材を失ったと心からお悔やみ申し上げます。

 私は小さいながら、歯科医院を経営していますが開業する前に歯科の専門病院で8年教育を受け、院長や先輩から多くを学び、そして多くの後輩に教育しました。開業してからも、毎週の勉強会に加え、この人にはこんなことを教えたら、こんな部分の能力を伸ばしたら能力開発ができる等、四六時中いつも考えメモをとり、それをさらにワープロで記録して保存しました。当医院では患者さんのデータに加えて、医院独特の教育のノウハウが現在はサーバー(コンピュータ)の中にあります。
それらの蓄積が、効率よくスタッフ教育する材料になっています。それは今でも毎日続けています。そして、スタッフが突然辞めたりすると、それらの努力は最初から振出しに戻りますが、めげずに何年も同じことを繰り返してきました。
溝の痛んだレコードの様です。(若い人はレコードをあまり知らないので理解しがたいかもしれませんが、その現象は同じフレーズを何回も繰り返します。)
 そんなバカなことをするなら、一人で気楽に仕事をした方が良いと思う歯科医師が多いのも理解できます。
 しかし、昔のように、歯科医師が少なく、患者さんが多いときのやり方ではなく、今の時代の患者さんの要求に応えようとすると、いくら挫折を繰り返しても、やはり、また一から出直しスタッフの教育をはじめる必要がどうしてもあるのです。
 長年懲りずに続けると、スタッフが育ち、院内の診療レベルが上がるのを見るにつけ、それらはあまり無駄な努力とは思われないのも不思議です。
 しかし、今回の事故で、多くのスキルをもつ人材が失われるのは、経営者の一人として、他人事ではなく、痛いくらい状況がわかる感じがします。
 スタッフを多く抱えて経営をしている院長、社長はこの様な苦労を乗り越えた人だと思うと頭が下がる思いがします。若いときは、若さとバカ力で乗り越えましたが、今回の事故は、他人事とは思えずとても心が痛みました。
 
合掌



先頭に戻る



Vol 35 《スマップと歯科医療》


 スマップの解散騒動で、メディアが騒がしいことがありました。私は個人的には全く興味が無いので、その件の週刊誌、新聞記事も読まないし、テレビ番組も見ませんでした。しかし、これだけ騒動になると、メディアもネタがあり、発行部数が伸びて喜んでいる人がいるのではないかと内心思っています。
先日、北野武さんが週刊誌で面白いことを言っていました。それは、彼のように芸能界に長くいると、解散後だれが残り、だれが消えていくのかという質問をされるそうです。彼の答えは、どんな有名な芸能人でも、やがて消えてゆく、また芸能界には、目が出ず消えていく人が膨大な数いるというものでした。でも多くの芸能人が永久に続くと勘違いをするそうです。しかし早い人は、一発ギャグで消えていく。その中で生き残るのは、売れているピークの時に、ピークアウトしたら将棋のように次の手を考えた人が生き残ると断言していました。北野さんもうれている時にいつも次のことを考えていたそうです。
それは、永久に売れることは、過去の芸能人を見ても、例が少ないということでした。全くその通りだと思います。
歯科界も、歯科医師が少なく、患者さんが待合室にあふれていたことが過去の歴史の中にありました。それを黄金時代と言うそうです。その時期に兄貴二人が技工士だったので、中学、高校時代アルバイトで技工物の配達に行っていました。歯医者は子供ながらにスゴイと思っていました。さらに、まさかの転職で自分が歯科界に身を置くとは夢にも思っていませんでした。学生時代に実習をしていて、電気関係に比較すると、あまりに理論が無いようなので、これが続くのかと疑問に思っていました。
 その疑問を解決してくれる先生を探し、多くの歯科医院を見学しました。ついに埼玉に、フランス、アメリカから帰国間もない飯塚哲夫先生に巡り合い、その時に説明をしていただいた将来の歯科界はこうなるという話が、最近ようやく自分自身多くの臨床経験を積んで現実のものになり、理解できるようになりました。
 それは、法医学で有名な上野先生が、膨大な検死からご遺体が口では言えない多くの事実を突き止めたように、次の時代にテーマを絞り、膨大な臨床経験を積んで、初めて、次への時代が理解できるものと確信しています。また、なるべく早い時期に、これら経験上の事実にも気づくことが歯科医師のみならず、一般の会社でも大切だということをビジネス書が書いています。次世代のビジョンをトップが持たないと一つの企業の運命は30年くらいの寿命と言います。歯科医院も同じように感じます。天下の大企業も安穏としていられない国際化が到来しました。この時代の変化に気づくことは、意外と身近な本屋でのタイトルで感じ取れます。
これら事実を確認するため外出した時に立ち寄る本屋で情報収集が私の楽しみの一つになりました。



先頭に戻る



Vol 34 《咬合と脳》


 私は以前にも書きましたように電気関係から転職して歯科医師になりました。
電気は、見えないし匂いもない、その魅力に魅せられて、小学校からキットの乾電池を作り電線を張り巡らし色々いたずらをしていました。兄弟が多いので就職にすぐに役立てるよう工業高校に進学し、そこで真空管工学、トランジスタ工学、それらを組み合わせた自動制御(ドローンはそれらの技術を応用したもの)などの基本を勉強しました。その技術を生かして、自分で設計図を書き、真空管アンブ、無線機などの制作をしました。そこでの経験の一つが、回路図にない回路の存在です。回路図通りに作っても、アンプはブーンという雑音が入り、無線機は送信機が正常に作動せず発振をしてうまく作動しない、これが回路図にない回路です。最近は自作をする人が少ないので、これらの現象を知る人は少ないかもしれません。しかし、これらの経験は咬合を理解するうえでとても役に立ちました。
 咬合のことは良くわからないという話を国内のみならず、学会で知り合った海外の歯科医師から聞く機会がありました。これは、長い経験から、咬合の理論を講習会や教科書でいくら習っても、実際患者さんの口の中で知識を使うのは、自分の経験から机の上では可能ですが殆ど不可能だと思います。

 これらを難しくしている一つの原因は不正咬合で、いつも脳から、噛みあわせのバランスを取ろうとして信号が出るので、最適な位置に誘導できないことに有ると数多くの臨床経験から思います。長い間、技工士、衛生士、とチームを組んで機能咬合器に付着して、顎の運動を再現して歯を作っていると、この脳からの信号が、咬合学を理解するのを妨げている大きなファクターの一つです。他にも原因がありますが、私自身もこれら現象に対処できるまでに膨大な時間を費やしました。咬合学を歯科医師、技工士、衛生士に教えるには、講習会などではとても教育できないと思います。やはり、できる人についてマンツーマンで習わないと膨大な無駄な時間、お金を費やすと自信を持って言えます。教科書に書けるのは理論のみです。

 しかし、多くのスタッフを教育して、理論(座学)プラス臨床を何回も行ったり来たりしてディベートをしたら理解できると実感しています。
昔長い医局員生活をして、自分では理解したつもりで開業したら、今までの知識ではほとんどスタッフの教育も含めて役に立たないことを実感しました。
この電気の回路図にない回路の考え方が役に立ちました。これらの概念を歯科医師になり、早いうちに理解したら、長い歯科医師の人生の中で、無駄な時間と金を使わなくて、さらにストレスの少ない臨床をして、仕事を楽しむことができると、最近、年を重ねるごとに強く感じます。 

 先日、歯科界でコンサルタントを長年している人が、業界紙で「歯科医師の一生は、最初に勤務した歯科医院の基本的な考えでほぼ決まりである」と断言していました。歯科医師は国の政策で人数を減らしているので、今後これらの考えを教えたくても、あまり興味を持つ人がいない様なのでとても残念に思います。
 しかし、4回のテレビ出演で、患者さんが全国から来院し、やはりトラブルを起こしている人の年齢は、40歳くらいから抜歯曲線が上昇するデータと、トラブルの年齢に相関関係がありそうです。また、歯科医師の中でも、臨床経験を長年すると、あまり口に出さないが咬合の問題で悩んでいる人が多いことも耳にします。歯科医療は咬合学なしでは成立しないからです。

 最後に自分事ですが、咬合学もゴルフも、机の上ではできないことを歳とって始めたゴルフで実感しているこのごろです。



先頭に戻る



Vol 33 《フィリピンの子供と、日本の子供》


毎年のクリスマスシーズンになると、フィリピンの子供からクリスマスカードが届きます。それは、娘が小学校2年で地元の小学校から、私立の小学校に中途編入したのがきっかけです。入学後、学校から薦められて、CCWA、フィリピンの貧しい子供たちが学校に通えるよう、毎月援助するという事業です。 それがきっかけで、実際に現地を見たいと思い、 母校が企画したボランティアで、フィリピン、タイ、日本財団が企画した、ミャンマーにボランティアで行きました。

 今まで援助したフィリピンの子供たちは、何人かは数えたことが無いのでわかりませんがおそらく20-30名くらいになるかと思います。
 我が家は一人娘なので、少しでも勉強したい人の役に立てばと、今でも実行しています。30年以上になると思います。
住所は相手に知らされていません。今まで、あまり熱心でなかったので、詳しいことはわかりません。また長い間、CCWAを通じて手紙を頂いたにもかかわらず忙しさにかまけて返事を書きませんでした。
ようやくここに2-3.年返事を書くようになりました。
 改めて、日本で起こっている、登校拒否やら、いろいろな問題が、世界の子供たちに比較すると、どれだけ恵まれていると思います。本とか、テレビではなく、実際、現地に行くと、実感します。  もともと、転職して今の仕事に就いたので、人の言うことは、参考にするが、自ら目にしないと信用しない性格なもので。
 15年以上前、町から依頼されたて、中学生に、将来どのようにして、職業を選かという講演を2回ほどしました。
 300名くらいが体育館に集まり話をしました。一回目は、感想を書いてもらうのを忘れました。2回目は感想を書いてもらうことを条件に引き受けました。
 内容は、東南アジアの子供たちの写真、インドに行った時にたくさんの子供が道端で犬や、猫と同じような生活している写真、横浜でホームレス、を望遠カメラで撮影(あれだけの環境の悪い所で我慢できるなら、人生のどんなつらいことでも、思考をブラスにしたら成し遂げることができることを言いたかったため。)

 感想文を読んで、先生は本当にオモシロイ職業だということが理解できました。
実は、小学一年の時に、イタズラをして、女の先生から北朝鮮のように皆の前で公開ビンタを頂きました。それ以来トラウマになり、それがきっかけで、同期生を殴り、一時意識が無くなりました。その時は子供ながら本当にマズイと思いました。それ以来殴ることの危険を身に染みて感じました。それ以来、学校の先生が嫌いで何かと自分なりに反抗していました。
 しかし、感想文を読んで先生に対するイメージが正反対になりました。話をしても、趣旨とは全く逆なとり方をする生徒や、すねているもの、正しく前向きにとらえるもの、バリエーションに読んでいておもわず、一人でニンマリ、当時元気だった、中学でお世話になた師範出の先生に読んでもらい。感想を聞くことが出来ました。結論は、人間は、車のパーツとは異なりすごく、バリエーションが広いこと。しかし、教育は子供の人生に、大きく影響があること。やはり、 私の師匠の教えどおり歯科医療と教育は、20-30年先を見て行う必要性を実感しました。それが、今後の医療費節約、健康寿命に関係すること。その経験を通して実感しました。ちなみに、亡くなった私の家内の父親は心の広い学校の先生でした。



先頭に戻る



Vol 32 《インプラントと部分床義歯》


 以前、患者さんから面白い話を伺いました。

親しい友人と北海道旅行、目的地は函館。往きの飛行機の中でその友人は、最新のインプラントを多額のお金を使って作った。これはすごいものだ、という自慢話を散々してようやく目的地の函館に到着。そして、楽しみにしていた函館の海の幸を食堂で楽しんでいた。本人は当医院で作った部分床義歯で、何でも食べられるし全く普通の歯のように使っていた。しかし、友人はあまり食べられず、あれはダメ、これもダメ。歯の間に物が挟まりとても不快そうに食事をしていたようです。そして、帰りの飛行機の中では、来る時に自慢話をした手前、その友人は…想像できますね?

 後藤歯科医院でもインプラント治療を行いますが、先ず残っている歯牙を徹底して保存することを優先しています。そして、その歯牙の予後を推測、それから残っているインプラント部分の骨の厚みをCTで確認します。更に、全体にインプラントと残っている歯のかみ合わせのバランスを技工室と一緒に将来のプランを設計して、初めて慎重に行います。
 すべてのインプラントがそのような状態とは思いませんが、とても面白い話を患者さんから教わりました。やはり、“真理は口腔にあり”で机上には無いようですね。

また、年を取ると背が低くなり、それに伴い顎の骨もサイズダウンします。その時に、取り外し可能な入れ歯は変化に対応できますが、インプラントはかなり難しいと思います。
当医院の技工室で、多くの患者さんのかみ合わせを特殊な器械に乗せて製作し、長期に観察すると、今まで分からなかった多くの事が理解できるようになりました。

ここでおさらい。歯を失った部分を補う方法は、インプラントだけではありません。取り外しの入れ歯は、正確に設計して、優秀な技工士が歯科医師と一緒に作ると、インプラントに全く引けを取りません。部分義歯を装着した多くの患者さんを長期にわたり観察すると、中には、自分の残っている歯より、部分義歯側がよく噛めると言う方も多く見受けられます。また、寝たきりになった時、他の歯が抜けて、インプラントだけが飛び出し、口の中が血だらけのケースも報告されています。しかし、義歯なら対応が可能です。
ただし、義歯だって良い事ばかりではありません。異物感、発音がし辛い、嘔吐反射の強い患者さんには入れられない等あります。しかし、技工士と共に試行錯誤しながら作ることで患者さんに満足してもらえるものが出来ます。

私の師匠から、教育と歯科医療は、10~20年先を見て、建築のように口の中を設計することが必要になると厳しく教育を受けました。いわゆる診療方針です。これが歯科医療の中で一番大事な部分です。
残っている歯と、入れ歯と、インプラントのコンビネーション。これは前回に書きました、カニの足と歯を参考にされてください。一本の歯だけを考えても、やがて突然バランスが崩れる怖さを、多数の他院の症例からうかがい知る事ができます。コンピュータのソフトが見えないように、この設計するノウハウは見えないので、もしかすると、見える部分のみに価値を認めるのも理解できます。
従って、見えないソフトをコンピュータに置き換え、歯科医師と技工士でいろいろな角度から観察する連携の必要性をさらに強く感じます。
しかし、今の日本では、技工士の就職率より、離職率のほうが高いのは非常に残念に思います。

歯科医療の中で技工士の役割は、頭を使い、手先より設計の技術がとても必要で面白い職業だということを多くの方に知らせたいと思います。歯科医師が少ない時代の応急処置的な歯科医療から、本来の医療としての歯科の治療が現在は行われています。水虫で足を切って義足を作らないように、むし歯、歯周病を治療して歯を保存する医療行為が出来る時代になりました。
時代は大きく変化しています。しかし、以前からの治療方針、処置などの考え方が未だに多く残っています。残念ながら考え方はそう簡単には変わりません。
偏った考え方、治療ではいい治療は出来ません。チーム(歯科医師、歯科衛生士、歯科技工士)で綿密に治療計画を立て、何が患者さんにとってプラスな方法かを考える。これこそ、今から必要な歯科医療だと考えています。
“真理は口腔にあり、机上にあらず”
今回の患者さんのお話から、改めて我々の立ち位置を考えさせられました。



先頭に戻る



Vol 31 《カニの足と歯》


 昔、全国でも珍しい、歯科の専門病院で医局員をしていた時に、各地から多くの先生が集まり研究会をしていました。(現在私は参加していませんが研究会は今でも続いています)
その会終了後、懇親会をしていました。
 我々医局員は、仕事を分担して、時には会計、時には宴会の幹事と裏で忙しく働いていました。ある時、懇親会でカニ料理店に行き、そこで食べたカニと相性が悪くそれ以来カニのトラウマになりました。しかし、現在全く食べられないわけではないのですが、 食べると当時の研究会を思い出します。

 今回のテーマは、実は、カニの足がもしムシバならぬ、ムシ足になったら、その一本のみを考えて治療すればよいわけです。(それがカニの全身から来ている病気ではない場合) では、人間の歯では?通常歯が痛くなってから、その一本の歯だけを治療すれはそれでOK。また別の歯が痛くなったら、その都度 その歯だけを考えて処置をする。
 これが一般的な考えだと思います。
 そういう治療と年齢を重ねると、口の中は、金属が多く被さった、さし歯が多くなります。それらが原因で、歯を失うと(40歳くらいから急に抜歯が増えます、日本人の統計より)余計にかみ合わせのバランスが狂うスピードが上がります。また、一般的に歯を作るときは、下請けに出すので、歯を作る技工士さんは、患者さんの口の中を見られないし、注文を受けた一本の歯しか見られないのが現状だと思います。
 しかし、人間の歯は顎関節を中心に下の顎の骨に植わっていて、連なっておのおの歯が協調して働きをしています。
ですから、その一本だけでなく、ほかの歯との関係を考えて処置をしないと、後で色々なことが起きます。

 しかし、昔は、歯科医師が少なく、患者さんが多いので、痛い部分を診る、また歯を抜いて、とりあえず入れ歯を入れないと仕方がない時代が長く続きました。この習慣を変えるのは、患者さんも、歯科医師も、保険制度も、なかなか難しいと思います。歯の数が多いとき、年齢が若いときは、比較的、問題が出ないようです。

 いままで、膨大な数の歯を治療し、顎の動きを精密に再現して歯を製作すると、問題点が鮮明になります。これが、体力が落ちてきたときなど、地震で活断層がある日突然ヅレが生ずるように患者さんの歯のバランスが崩れた結果、水面上に症状が一度に出現します。突然口が開かなくなったり、肩こりがひどくなったり、顎の関節付近が痛くなる、そのような症状で患者さんは、歯科以外の、脳外科、整形、耳鼻科等を受診している人があるようです。これらの症状は、歯とは関係ないという歯科医師も存在することも事実です。しかし現在までに、知り合いの脳外科から、かなりひどい症状を伴った患者さんを紹介され治療、入れ歯の治療の後、患者さんのこれらの症状の改善をコンピューターで、証拠を確認。これらの体験から、このカニの足と歯との、治療の違いを実感します。不定愁訴を主訴に来院された症例の中で、総入れ歯でも起こることを多数経験しています。また、これらの症状のある患者さんの関節を撮ったCTは顎の動きを調べる器械で調べた不調和と関節の変形に密接に関係するようです。

 これらの症状は、ある日、歯を少し削っただけで、突然出現することがあり、患者さんの誤解を一身に受ける結果になります。これらの理屈を、治療する前によく説明をすることはとても難しいですが、コンピューターの力を借りて、最近は効率よく理解してもらうようになりました。よく理解して治療した患者さんの予後は抜群です。やはり、真実は、机の上にないようですね。また、これらかみ合わせがおかしい状態が原因で、私のカニの足のようにトラウマになった患者さんも数少ないが存在します。

先頭に戻る




前のページに戻る