名誉院長
名誉院長からのメッセージ

名誉院長からのメッセージ バックナンバー 《51~60》
60.《前歯と奥歯》
59.《魔法のスクリーン》
58.《咬合器とは》
57《顎がズレている?》
56.《チューイングサイクルって何?》
55.《オレオレ詐欺と歯科医療》
54.《病気と不快な症状》
53.《通行人と歯科医療》
52.《治療椅子と歯科医療》
51《転職して50年以上で感じたこと 不思議な歯の話?》
<<《Vol 61~Vol70 》 ⦅Vol40~Vol50⦆>>
Vol 60 《前歯と奥歯》
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前歯がぐらぐらしているので抜きましょう!! ちょっと待って!!
実は、前歯(両サイドの糸切り歯の間の歯を言います)と奥歯は密接な関係があります。それは、以前に書きましたように顎関節を基準に歯の並びを考えると理解しやすいと思います。
歯は一カ所削ると、エネルギーは他の歯に移動して、どこかの歯が噛む力を受けないと、噛み合わせは成立しません。(前歯は噛む力を受けるのに構造上適していません)
また、歯はグラグラしているだけでは抜歯の対象になりません。顎の動きを精密に咬合器に再現して歯を作ると、実は歯をグラグラする原因は、前歯の場合は奥の噛み合わせが問題で、その結果前歯に問題が出ることが大変多いです。
何回も言いますが、噛み合わせの基準は両サイドの顎の関節が基準になります。基準を再現するには理論と、かなりの臨床経験が必要です。奥歯の噛み合わせに問題があると、微妙に噛んだ時に下の顎が前にズレ、上の前歯の裏側に下の前歯がストンと当たります。すると動揺が起こります。(歯がしっかりしていると、異常な摩耗が生じます。) 前歯の理想的な噛み合わせは、上下の歯を噛みしめた時にほんの少し当たらないのが理想とされています。これらは多くの臨床経験からも納得です。したがって、前歯が動くからといって歯を縛って固定しても、ケースによっては解決にはなりません。時には前歯の差し歯が外れることが有ります。いくら作り直しても殆どが同じことを繰り替えし抜歯になるようです。
解決は、顎の動きを精密に咬合器に再現して、奥の当たっている部分と関節とのバランスを取らないと解決しません。このような顎のヅレが上下の場合を今まで多数経験しています。(成人の矯正治療後にも認められる)この状態は噛んだ時に前歯しか当たらない状態です。しかし、噛んだ時この状態は、気持ちが悪いので脳みそからの命令で、顎を微妙に左右にヅラして解決をするようです。ですから、一見すると全ての奥歯が噛んでいるのと勘違いをします。ここが難しい部分。また、それにより関節の円盤が痛みます。(CTで確認できます)
これらの現象は、咬合器に精密に下顎の動きを再現すると、素人でも直ちに理解することができます。また、これらの害は食事をしているときには殆ど起こりません。理由は、食事をしているときに直接歯が接触する時間は、とても短いという研究報告が有ります。実は睡眠時に、誰でも食いしばりをしています。頭蓋骨は一般に生活しているときに体の一番高いところにあるので重力の影響を受けません。もし骨が重力を受けないと、骨はもろくなるはずです。それが起こらないのは、寝ているときに噛みしめることで両サイドから頭蓋骨に重力の代わりに力を加えて骨を保護しているようです。
その証拠に、歯が有って亡くなった人の頭蓋骨の重さと、歯が無くて死んだ人の頭蓋骨の重さは一説には歯の重さを入れなくても2分の一程度しか重さがないと言います。これらの事実から、かみしめるのは頭蓋骨を保護するためと考えるのが自然と思います。しかし、関節の基準と歯の並びに不調和があると、その間で顎が動いて音が出ます。これがハギシリの原因と思われます。顎と歯の調和を取ると殆どがなくなります。(脳に疾患がある場合は異なるかも知れません)現在は、ストレスでハギシリをすると言われますが、確かに顎のヅレは、ストレスでそのような動きをするかもしれませんが、実際は、噛み合わせの治療をすると殆どが消失します。しかし、噛みしめは以上の理由で誰でもしています。顎と歯のバランスを取って歯を作った人は、術後噛みしめが強くなる人が多いです。
子供のハギシリは、良くないという学説もあるようですが、私は極めて自然な行為と思います。長い間膨大な人数の子供を治療して長期に経過を観察すると、子供の顎は、身長が伸びるのと同様に顎が大きくなり、当然噛み合わせが変化します。しかし、変化に対応するために歯をすり減らし、成長に対応します。ですから永久歯に代わるころの乳歯は噛む面がハギシリによって平らになっています。頭蓋骨の成長のためには、適度な刺激が必要です。子供の時に下の顎を事故で損傷すると、下の顎の発育が悪くなるだけでなく頭蓋骨の発育も問題のようです。
また、人類は火を使うようになり大きな顎が必要なくなり、その結果、脳みそが発育したわけです。( 胎児が産道を通る大きさは限られているからです)
脳の発育は、歯が原因と言ってもよいかと思います。その結果歯を失い噛めないと、当然に脳に何らかの障害が出ることは想像できます。認知症などの発症が考えられます。
介護施設で働いている人に尋ねると認知症の多くの患者さんは、歯がない、入れ歯が噛めない、歯が悪い等、何人からも同じような返答を伺うことが出来ました、納得です。
ですから、歯を悪くすると、以上の理由からも人生の後半で膨大な医療費が発生することが考えられます。最近高齢者の自動車事故が多くなっているようですが歯の状態から、調べたら、もしかしたら何らかの法則があるかもしれません。一概に高齢だから免許を取り上げる以前に身体的なリサーチが必要なのではないでしょうか?
もちろん車のシステムのリサーチも必要ですが。
長い間最前線で長期にわたり患者さんを観察していると、歯と脳みそに多くの関係が有ると考えざるを得ません。
以前母親に連れてこられた引きこもりの成人の患者さんが治療後に、笑顔があふれて人格が変わった経験があります。歯が原因で体の色々な部分に変調をきたすのは当然かもしれません。なぜなら我々は生きていくのに必要なエネルギーを口から取り入れないと生活できません。その大事な入り口の歯は一般には世間ではダイヤモンド(少し大げさかもしれないが)よりかなり低い価値しか認めていないのは不思議でなりません。しかし歯科の歴史を振り返ると仕方がないものと思います。特に転職して、この業界にいると医療行為なのか?
この部分にとても違和感を覚えます。いまだに転職したのに歯医者の常識に染まれない歯科医師の臨床現場からの話でした。
2019-7-6日(土曜日) 第21回院内の学会です
Vol 59 《魔法のスクリーン》
昭和の時代にNHKの技術研究所がテーブルのような大きさのディスプレーに色々な画像や文章を表示して、データを一括するというテレビ番組を見ました。
どこの製品かと調べましたが、どうやら試作品の様でした。それから長い時間が経過し、それが現実のものとなりました。また、テレビの初期のスパイ映画でお互いに小さな携帯で連絡を取り合っていました。当時真空管の時代で、あのような小さな機器の内部がどの様になっているのか?架空の映画でも、きっとあのような構想がどこかにあるように思いました。しかし、あの様なことは出来ないと殆どの人が思っていたことは間違いないと思います。携帯電話も実現しました。
技術の進歩とは今まで誰も考えなかったことが現実に起こるという事です。
それには一般の人には見えないところで、地味な基礎的な研究がなされていたことは事実です。その多くの基礎的な研究者の努力、LEDの開発も含めて世間ではあまり評価を受けていなかったものと想像します。私の無線の友人にもそういう技術者がいます。それらを研究していた人は、当時お金にならなかったかもしれません。しかし、お金とは関係なく、自らの好奇心によって多くの失敗を重ねながらも、それがあるときに世間から認められて色々な分野に役に立つことができたのだと思います。今の日本は、そのような基礎的な研究は直ちにお金に結びつかないとして政府からの研究費も出ないという話を聞いたことがあります。目先のお金になる部分に目を奪われて地味な基礎研究をする人がだんだん減るのは、とても心配になります。また、世間ではマスコミの常識に少しでも外れると皆でバッシングをする。多くの失敗の上に開発された製品を、人もマスコミも当たり前のように日常で使用しているわけです。ワープロの開発もそのような経過を取り、現在世界中で利用されています。工業高校卒業後、一年在籍した電々公社で機械式タイプの訓練を受けた者にとっては現在の液晶のディスプレーは簡単にミスタッチを修正出来るので、魔法のスクリーンの様に映ります。
液晶画面を開発した理工科系の技術者は地味な研究をして、口下手で目立ないであろう多くの技術者が関わってディスプレーを開発されたことに頭が下がります。
元真空管工学、トランジスタ工学を学んだ私は、初期のプロ用のワープロを何台も使い、何とか仕事に利用できないかと悪戦苦闘してきました。ブラウン管のディスプレーは大きく重くて奥行きがあり、一時、医局のコンクリートの壁をブチ抜いて、それを設置しようかと本気で思いました。(しなくて良かったと今は思っています)
最近の魔法のディスプレーを全ての診療室に配置して、PCを使いサーバーに接続して毎日、書類の電子化や治療のアイディアをキーワードだけを最初に打ち込み、アイディアを膨らませる。診療中に小さなメモ用紙に自分の考えを書いて後で魔法のスクリーン上で一つのプロジェクトとしてまとめて、それを臨床に生かす。このプロセスは、何歳になってもワクワクします。
40代の頃に、医科の画像学会に出席し将来はこうなるであろうという仮説のもとに設備を整え、膨大な書類、文献、新聞の切り抜きなども高速スキャナーで電子化して保存でき、特に歯科の雑誌は全てカッターで切断してバラし、ジャンル分けして保存。そこで目につく記事が、どうやら歯を抜いた後どうするかという記事が多く、なんで歯科医師が増えたのに、その様な記事ばかりが多いのかと驚きます。
歯を残すための記事が少ないのは非常に気になります。歯を残す技術が進んで、それでも仕方なく歯がなくなった部分を、ほんの少し補うためにインプラントなどが存在するものと筆者は解釈しますが。最近、以前には殆どなかった、インプラントをした後のトラブルで来院する患者さんが増えてきたのに時代の変化を感じます。(当医院が場所の悪い田舎だから、最近感じるようになったのかもしれませんが?)多くの記事を魔法のスクリーンで見ていると、何かおかしい感じがするのは自分だけなのかと心配になります。
情報は、日頃臨床をしていて些細な問題もすべてメモに取り、それをもとに魔法のディスプレーに書いていきます。アイディアの連鎖反応が起こります。
先日PCがトラブルを起こし、10年ぶりにスクリーンを新しくしました。それは、30インチで画像もきれいで驚くほど安いので大満足です。
最初使っていたプロ用のワープロは、ディスプレーが一人では持ち上がらないくらい重く置く場所もスペースを多くとり苦労をした思いがあります。それに比較すると30インチでも軽く幅も薄く画像も綺麗で広い画面の中に色々なアイディアを書いて放置できます。自分にとっては、まぎれもなく魔法のスクリーンです。その画面で自分の思考を書き、ものを考えるのは電子工学を少し学んだ自分にとって、とても幸せな時間です。なぜなら、もし真空管でこのシステムを組んだら一つの巨大なビルと、膨大な電力が必要になるからです。
歳をとると記憶が悪くなりますが、それは思い出してもすぐに忘れるからで、直ちにメモして魔法のスクリーンでキープすれば問題はありません。あの資料は?文章は?と探す時間が少なくなるばかりか安心して忘れて、次の新しいアイディアを構築するのに多大な貢献をします。あまり使わないが捨てられない本もカットし、全て内部に入っているので歳を重ねて記憶が鈍ることには全く心配がなくストレスから解放されました。
いつも、頭の中をリセットして、新しく物を考えることが出来るのは、とても幸せだと感じます。昔から一番嫌いな理論の無い丸暗記をしなくて済みます。それら蓄積された情報を利用して何をするかを考えることは、若い時よりアイディアが増えたような感じです。
人生は短いが最近のテクノロジーの一部を使い丸暗記から解放されました。とても幸せなオフィスです。
スタッフとのやり取りは、外部とは遮断された院内LANで必要なら直ちにデジカメで画像プラス文章、直接打ち合わせをしなくても、タイムシフトで意思の疎通が可能に。これも魔法のスクリーンの御蔭。
スバラシイ魔法のスクリーンを作って頂いた多くの技術者に感謝して毎日、タイプ、書類の電子化を楽しんでいます。魔法のスクリーン万歳。
記憶力が衰え頭のCPUが古くなった歯科医師の独り言です。
Vol 58 《咬合器とは》
歯科医院で、噛み合わせを取りますので「ハイ噛んで」と言われた経験のある人は多いと思います。私も学生時代に何の疑問もなく、印記した歯型をもとに歯を作っていました。 しかし前回説明したように関節と歯の関係がより鮮明になってくると、それは少し違うのではないかと思うようになりました。
しかし、昔は歯科医院が少なく患者さんが朝早くから並んで治療を受けていた時代が有り顎の動きを正確に調べて歯を作るなどは、とても面倒で物理的に無理でした。 最近は政府が歯医者をたくさん増やしすぎて?
試験を厳しくし、この人手不足の時代に全国で1000人以上の若者が浪人生活を送っているという国の政策に疑問を持たざるを得ません。
一回の国家試験で、それも鉛筆を転がしてよいような出題(難問のため)で6年間勉強した若者に資格を与えないのはおかしいと思います。それなら歯科大学に行かずに国家試験をパスすれば弁護士の様に資格を与えたらよいと思います。なぜなら卒後多くが開業医のもとで研修を受けているので問題がないと思います。
学校で習う答えのある問題に対して、変に深く考えると国家試験は落ちるかもしれません。今後の日本は答えのない分野を自分で開拓する気持ちが必要です。臨床には白でもなく黒でもないような症例が毎日迫り、直ちに治療法を考えないといけないメンタリティーが国家試験だけで育つのか?
制度に疑問を持ちます。話が脱線しましたが最近は歯科医師が増え、患者さんの要求も高度になり理論的にキッチリ説明できる組織を構築する必要性を感じます。
実は顎の動きを調べる機器には大きく分けと3種類と考えてもよいと思います。
1、 よく使われている平線咬合器と呼ばれる種類。これは歯を基準に、上下顎をライオンの様に上下にしか動きを再現できません。簡単に上下の噛み合わせの状態を知ることが出来るので世界で一番多く使われている機器と言えると思います。
この機器に仕事をさせる行為が、誰でも経験があると思いますが、「ハイ噛んで」です。
2、 次に歯と顎のヅレを測定して下顎の動きをほぼ正確に再現するのが、半調節性咬合器です。チューイングサイクルの時に説明したように、関節が前に出た時の角度を再現できます。
3、 次に、さらに複雑な機能をした全調節性咬合器です。これは研究に使うならまだしも、臨床には殆ど必要がない。昔、噛み合わせの学問が流行った時にエライ先生が使っていましたが、どちらかというと飾り物のような雰囲気でした。最近は見なくなりました。それにコンピュータ-を使った製品があるようですが基本は2の咬合器を使い、理論と診療に使いこなせないと、ほとんど宝の持ち腐れになります。
一番目の機器は、たくさん使われていますがライオンの歯を作るなら問題ないと思います。
しかし人間は雑食動物で例えればライオンと牛との中間の顎の動きをするので、平線咬合器は、問題が出ることがあります。 例えば歯の並びと顎の基準点が合っているケースは問題がないわけではないが良いかと思います。また、年齢が若いと顎と歯のバランスが崩れていても症状が出ないこともあります。しかし長い間、片方の顎に歯がない人は反対側の筋肉が発達して、「ハイ噛んで」は顎の筋肉の強いほうに引かれて、出来た入れ歯は片方に寄った入れ歯が出来上がります。患者さんは理屈を良く分からないが装着後何となく「オカシイ」と言います。その違和感を解決するために歯の面を削ると歯が平らになり、牛の歯の様になることがあります。我慢しながらそのまま噛んでいると顎の筋肉が衰えて、常に脳がそのおかしさをコントロールするので、いつの間にか感覚が鈍くなり、いつも、何かおかしいが、こんなもんだろうとあきらめ使用し続ける。しかし小さな部分のムシバの治療後に詰めるだけなら、あまり害が出ません(正確に言うと多少問題が出ますが)
そのような症例を今までに多数治療してきたのでとても良くわかります。
しかし、いったん歯科界に常識が出来上がると、それに疑問を持つと奇人変人扱いをされるので今まで通りで良いか、という気持ちになるのも理解できます。
2番目の機器はスエーデンで発明され50年以上前から理論を構築して作られた機器です。以前に世界の歯科学会で、スエーデンの歯科医師が隣に座ったのですが難しいので使っていないとのことでした。開発の時代が早すぎたのかもしれません。
この機器を使いこなすには、歯科界にある、歯科医師が一番偉く他は家来というメンタリティーを一度捨てる必要が有ります。組織の上では歯科医師が当然トップですが、仕事をするときは技工士、衛生士と、同じ目線で仕事をしないと、治療が成立しません。しかし歴史的にそれはとても困難なことで、多くの時間が必要と思います。後藤歯科は40年以上チャレンジしていますが、人によっては診療時間内で教えるのは難しいので、時間外に教えようとすると色々なことが起こり最近は本当に教えるのが難しいとこの年になって実感しています。
したがって、第2番目の機器を使いこなせる歯科医師は当分現れないと思います。
本当に理論を理解させて使いこなせるには相当出来る技工士でも10年以上の時間と多数の症例を消化しないと不可能です。しかし、理論、技術を備えたスタッフが育っていますが、それでも今までのやり方と異なることを理解するのに時間が必要で理解する前にギブアップし退職したスタッフをたくさん経験しています。さらに技工士、衛生士の地位向上のために(研究棟まで作り)尽くしたことが何回も裏目に出てヒドイ目に会いました。
時間を重ねて、こう教えたら出来るのにと歯がゆい思いをしながらあきらめずにやっていますが、これらの技術を理解して治療した患者さんの結果は素晴らしく、ノウハウをあの世に持っていくのではなく、ぜひ次への世代に継ぎたいものと歳を忘れてやっています。
咬合の奥の深さを本当に理解して入れ歯を作った遠方から来院した患者さんも、心の底から満足して、なぜもっと早く後藤歯科で治療を受けなかったのかと同じことを言う人が増えました。
顎の上にいくらダイヤモンドを並べても、それが機能しなければ全くの石ころと変わりません。理論の必要性を改めて感じます。 転職して歯科界に身を置いた者からの感想です。 2019-令和、初めの感想です 2019-5月27日
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Vol 57 《顎がズレている?》
一般に我々の業界では患者さんの顔や歯並び見て、あなたは顎がヅレテいますねということは一般的に言われます。然し、この顎がヅレテいることをよく考えると、いくつかの面白いことが判明します。
学生時代に上下の歯の真中が合っていないと、顎がヅレという表現していました。顎がヅレということは真中の歯を見てこれは簡単に表現出来るのでと、そのように思っていました。
しかし今までに4000例以上の患者さんの顎の動きを精密に測定して歯を作ると、これは明らかに間違だと最近断言できます。
根拠として、顎のヅレと歯の位置関係のヅレは全く別のファクターです。それは生まれたときには歯がありません、また、何らかの原因で歯を全部失った人は歯がないのでヅレは歯を基準には考えることができません。当然顎のヅレは関節が基準になることは誰が考えても当然のことと思います。
子供の顎はそこに歯が生えてきます。又、総入れ歯は人工的な歯を並べます。そうすると歯の噛み合わせと関節の基準との間にミスマッチが考えられます。実はこの状態が歯のある人も総入れ歯の人にも問題が起こるわけです。しかし若い時は脳からの命令で何とかつじつまを合わせます。歳と共にそのミスマッチが色々な自覚症状として出現します。特に総入れ歯では入れ歯が不安定で何となくどこで噛んでよいかわからない。型を取るときに頬と舌の筋肉が異常に緊張している。そして入れ歯安定剤の出番になるわけです。(正しく作られた義歯にはそれは全く必要ありません、認知症など特殊なケースを除いて)
そして顎の基準を狂わせます。その結果CT画像から驚くような関節の変形が認められます。それは顎を基準にして咬合器(顎の動きを再現する機器)で再現すると、ヅレと変形の関係が密接に関係していると言わざるを得ません。
今度は顎の基準の位置から考えると、多数の症例から大きく分けると3つに分類してもよいかと思います。一番目は左右にヅレテいるケース、2番目は上下にヅレの場合、三番目に、そのミックスしたケースです。そのヅレのパターンによって色々な症状が出現します。
症例は少ないが先天的に右の顎の長さと左の顎の長さの異なる人、関節に病気がある場合これらは特殊なケースとして分類から除外したほうが理解しやすいと思います。顎の基準と歯の並びが顎の基準に合っていない人の関節をCTで調べると驚くような変形を多数確認することができます。適合の悪い入れ歯(顎の骨を吸収させてバランスを取るようです)、多くの症例の中に矯正で力を加えたために関節頭が変形したと思われるケース。CTを導入して多くの問題の有る患者さんを治療すると関係が鮮明になります。
では顎と歯のバランスが崩れる原因は? 子供の歯から大人の歯に生え変わるときに子供の歯をムシバで喪失、また6歳臼歯(噛み合わせの基準になる大事な歯なので最初に生えてくる)は多くがムシバで最初に抜かれると、残っている大人の歯の位置が狂い全体の歯並びと上と下の歯の接触関係が壊れるようです。
成人になり歯の治療で関節を基準に歯を作らないと、さらにバランスが崩れた状態になります。多数の色々な不定愁訴を有する患者さんを調べてみると関係性がより鮮明になります。これらはテレビで紹介されて特に問題を抱えた患者さんを一度に多数診察した結果からも判明しつつあります。歯の位置が狂い顎の位置が狂った人の出す症状は本当にビックリします。また、多くの患者さんがどこに行ってよいかわからず歯科以外で処置を受けていることも判明しました。(患者さんの証言から)
また、歩行が不安定になることも最新の高度なフラツキを測定する機器で判明しつつあります。
私自身の経験から顎関節症で長い間苦労したので、よくわかります。柔道をしていて、長年腰痛で苦労しました。昔は前歯が上と下で真ん中がきれいに合っていました。学生時代に良い噛み合わせと言われました。しかし関節を基準に治療したら、かなり上に比べると下の歯が片方によりました。そして色々な不快な症状は完璧に消失しました。以前から患者さんで理解していましたが自分の歯は治せないので、最近ようやく院内で治療をしてもらい快適になりました。その間に自分の口だからと仮の歯で噛み合わせの実験を行いましたが、自分が立てた仮説どおりでした。
顎の基準点と歯の位置が狂った人は、歯を少し削ると途端に上下、左右のバランスが崩れ、とても不快な症状が出ることがあります。しかし、正しくバランスをとれば治りますが気を付けないと一方的に削ったお前が悪いと非難されることも過去にありました。また、その間に関節のクッションがつぶれていたのが元に戻り変化するので噛み合わせの学問は訳が分からなくなります。多数の症例の経験からも断言出来ます。ここが噛み合わせの治療が一番難しいところでもあります。これらはCT導入でほぼ解決できました。
関節を基準に歯を作ることの大切さが少し理解できたかと思います。私もこれを理解するのにとても時間がかかりました。
最後に歯と顎のアンバランスの簡単な診断の仕方、それは鏡を見て顔を自分で真っ直ぐにして、奥の歯でカチカチと歯を当てると左右どちらかの歯が先に当ると思います。
次回はその顎の動きを再現する機器のことについて説明をしたいと思います。次回をお楽しみに!!
平成の時代にいろいろ経験した事実を書きました。
Vol 56 《チューイングサイクルって何?》
チューイングサイクルとは何? サイクルと名がつくので自転車の一種では?
と思うのが一般的だと思います。
実は、歯科治療の中でとても大事な概念です。人間は色々な食物をとり進化を遂げてきました。 色々な食品を食べるので、雑食動物と言われています。牛は草食動物の代表で餌を食べるときに草を効率よくすりつぶすために顎を左右に動かし草などを食べます。また、ライオンに代表されるように肉食動物は獲物を効率よく捕獲して食べるために顎は牛の様に左右に動かず上下運動だけで咀嚼して胃袋に送り込みます。したがって主食によって顎の動きが全く異なります。
では人間はどうでしょう?
日本人は米を主食に長い間進化を遂げてきました。肉を食べるようになったのは歴史的にみると、ごく最近です。
実は、この雑食動物は食べるときに顎の動きがとても複雑なので、時には多くの問題が生ずるわけです。人種によっても顎の大きさや筋肉のつき方が多少異なるようです。ですから、西洋の教科書は参考にならないことがたまにあるわけです。特に総入れ歯では米を主食とする日本人の顎は肉食人種に比較して、とても顎が小さく歯の根っこの長さも短いので世界で治療は一番難しい部類の人種に属すると思います。ですから簡単に顎のヅレが生じて肩コリが西洋人に比較すると多いのも納得です。逆にわずかな噛み合わせの不調和でも西洋人に比較すると多くの症状が出現するものと思われます。あくまでも数少ない西洋人を治療した個人的な感想ですが。
チューイングサイクルとは、この物を食べるときに顎の動く軌跡をすべて観察すると、牛は殆どが左右、ライオンは上下。人間という動物は、その中間になって軌跡が水のしずくのような形になるわけです。 したがって、それにより歯の形が全く異なるわけです。牛は平、ライオンは鋭くとがっているだけといってもよいと思います。人間は山あり谷あり、その歯の角度は顎の動く角度によって異なります。だから、顎の動きと歯の形の調和が取れないと歯がグラグラになったり、顎が痛くなり口が開かなくなったり、肩こりがひどくなったり、という症状が出現します。 これらは若いうちは脳みそから命令が出て、それをうまくかわすことができますが歳をとると、これがうまくいきません。
また歯の周りの組織の抵抗力が低下します。そしてそれらをかわすために顔を曲げたり、姿勢が悪くなったり全身でバランスを取るようです。
これらが老人は転びやすく寝たきりになる原因の一つになります。また治療をすると少なからず改善します。歩行のバランスを調べる高性能の測定器で計測すると明らかです。
これは教科書で基本は勉強しましたが今までに4000例以上の患者さんの歯を作る過程で顎の動きを正確に機器(デンタータス)に乗せて、より鮮明になってきました。これは技工士と一緒に共同作業をしないと出来ない治療です。この問題を避けるために簡単な解決策は歯を牛の様に平らにすればある程度解決します。だから多くの入れ歯の噛む面が平らなわけです。平らにすると今度は肉を食べたときに、なかなかこなれません。それは牛が、ライオンの餌を食べるのと同じわけです。 歯を新しく作ったが肉が食べづらいという多くの患者さんの証言からも明らかです。これらは食べもの味にも関係があります。歯の治療で一番大事なのは皆さんの顔形が異なるように、実は顎の角度((顎を前に出した時の角度)は人によりすべて異なります。今まで多数の角度を測定すると中には、ほぼ0度に近い人から中には35-40度(後藤歯科で使用する機器の値)近い人もいます。当然それにより歯の形が異なり咀嚼の効率が異なります。
今までの長い経験から歯の数が少なくなると当然顎の角度も低くなります。また変な噛み合わせを長期にガマンして来院した人の関節のCT画像から驚くような変形を認めることが多数あります。
これらの事実から顎の動きを技工士と共同作業して歯を作る必要性を実感します。 人生の後半で噛めないことが原因で色々な病気の引き金を引くことになります。多くの患者さんを長期に観察していると、やはりガッチリ噛めるようにした人は脳みそに刺激が行き、人世の後半で元気で寝たきりが少ないように思います。亡くなった家族の方からの報告からも事実のようです。
実は、このチューイングサイクルは、とても大事な割には歯科の業界では殆ど関心を示す人がいないようです。また我々は雑食動物であることを忘れると色々な問題が人生の後半で出てくるようです。
レストランで暇なときに食事をしている人の顎の動きを観察してチューインサイクルをチェックしてみると動物としての人間がものを食べる基本は何かということを実感できて歯の治療の大切さを再認識することと思います。
レストランは観察するのには、とても面白い場所です。
でもあまり人を眺めると誤解されるので注意して眺めてください。
長い間の臨床経験から判明した面白い現象を書きました。
2019.4.1
エイプリルフールでの話ではありません、念のために!!
Vol 55 《オレオレ詐欺と歯科医療》
最近コンピュータの簡単な設定のことで面白い経験をしました。それは、家内にアドレスとそのパスワードについての話をしているときに、パスワードの必要性を説明しました。しかし、コンピュータのシステムを理解できない人にとっては、頭の中に描くのがとても難しいことが判明しました。
家内はスマホ、コンピュータを自分以上に使いこなしています。私は、個人的にはPCオタクではなく、いつも冷静にコンピュータに仕事の上で何をさせるかという「システム」の構築にとても興味を持っていて、院内でいろいろなアイディアをだし、後藤歯科独特の治療形態をつくってきました。そのようなわけで、非常に簡単なシステムでも理解しなくても製品は使うことができます。
例えば車に乗るときに、車のシステムを理解していなくても車にガソリンを入れて、時にはワイパーの液を入れて、オイルはスタンドで見てもらえば、ほとんど車は使いこなすことが出来るわけです。しかし、ダイナモの故障でどのくらい恐ろしいことが起こるかは、ほとんどの人は知りません。たくさんの車に乗ってきた中で2回ほど恐ろしい経験をしています。しかし、事前に車のシステムを理解していたので大きな事故を未然に防ぐことが出来ました。まったくの素人にそれらを教えるとなると話が別です。
車同様に電話、スマホのシステムを理解していないと息子を語って、オレオレ詐欺が起こることが十分に考えられます。電話は話し声の周波数が一度にたくさんのデータを送れるよう帯域が制限されているので、直接話をするのと異なり、他人がそれを利用して声を加工することが容易に可能です。電話によっては声の質が変わります。年を取ると人を疑うのは疲れるので、ついその話を信用してしまうのも理解できるような気がしました。電話のシステム、どのような経路でつながるのかを素人の老人に説明をしろと言ったら、やはり、全体的にどこから説明してシステムを理解させるかということはそれなりの知識と技術が必要なことを実感しました。
これを自分のプロフェションな歯科に置き換えて、よい噛み合わせとは?良い入れ歯とは?歯はなぜ抜かれるのか?この程度の問題を挙げても素人に判りやすく説明するのは、とても難しいということを医局員時代から経験しています。インフォームドコンセントという言葉がない時代から師匠からいつも素人に説明するのは難しいので、よく理論を理解して話をしないと出来ないと教わりました。転職して50年以上経過しても、今でも難しいと思っています。昔は患者さんが待合室にあふれて、そのような説明は殆ど必要が有りませんでしたし、物理的にも無理がありました。しかし、時代が変わり国民の殆どがスマホでいろいろな情報を得ることが出来るようになり、政治家も専門職といわれる人も昔の感覚では仕事が成り立たないような時代の変化を感じます。
例えば、歯並びが良いと噛み合わせが良いと昔は自分もそう信じていました。しかし、噛み合わせの勉強と多数の患者さんの顎の動きを調べて歯を作ると、これは全く間違えであることに気づかされます。理由は生まれたときは歯がありません。また、総入れ歯も歯がありません、当然噛み合わせの基準は歯ではなく、顎を支える顎の関節が基準になるわけです。しかし、顎の関節を基準に歯を作ろうとすると、技工士、衛生士とチームを組まないと、その実現は、ほぼ不可能です。下請けに出して歯を作るということは考えられません。この例からわかるように、口で言うほど簡単ではありません。特に政府の歯科に対する低医療費政策の中で患者さんに説明をする時間を作り出すことは相当覚悟して無駄のないシステムを組まないと、歯を医療行為として保存することはとても難しいと実感しています。また、歯を抜いて入れ歯を作れば簡単かもしれませんが、それは人生の後半で患者さんが膨大な時間と無駄なお金を使い、気を付けないと噛めないことが原因で、体がふらついたり転んだりする事実があることを実感します。それは、多数の患者さんを一か所で長期にわたり観察、また当医院の話を聞きつけて来院する老人の口の中から多額のお金と時間を使い、その結果噛めないという事実をいやというほど経験すると、やはり若い歯科医師は最初からお金を目標にするのではなく、もう少し治療の理論武装をしたらいいのではないかと、最近多数の不満を抱える年老いた患者さんの証言から実感しています。また、そのような患者さんが口コミで最近増えてきました。これも歯科医療を医療行為としてとらえていない制度?
歯科医師の考え方の相反することを転職して歯科界に長い間身を置いて、このような事例が益々多くなったと実感します。
今までに、このような原稿を書いたら歯科医師と思われる方から常識を疑うようなバッシングをネットで受けました。やはり、私が書いている記事は今までの歯科界の常識にはないことを実感しました。
転職して偶然に歯科界に入り、最近バッシングを受けた年老いた歯科医師の感想です。
Vol 54 《病気と不快な症状》
最近のテレビは、個人的にはあまり面白くないので(年を取ったからかもしれません)CSテレビで科学番組を見ています。中でも、面白いと思うのがアメリカンピッカーズです。アメリカ全土で色々なジャンルのコレクターを取材しながら、古物商人が眠っているお宝を発掘して、販売をするというとても単純な番組です。しかし、アメリカは国土が広いので、そのジャンクと思われる量の多さと、収集してある保管場所が東京ドームよりはるかに大きいため、多くの人が出演します。特に、車関係ではその量とそれを保管する広さに唖然とします。アメリカの田舎のその土地の文化・建物・歴史的な出来事も知ることができ、アメリカはニューヨーク・ロサンゼルス・シカゴという大都市だけではなく、保守的な田舎を知ることができて面白いです。
出演する老人のコレクターの中には前歯に金が巻いてあり、昔日本で流行った「お前もそろそろ歳だから前歯に金でも入れておくか!!」と言う話を学生時代に聞いたことが有ります。これらは医療行為とは殆ど関係なく、これらの習慣は明らかにアメリカから来たものと推察します。これらは歯科の歴史を知る上でとても興味深いものが有ります。
以前に後藤歯科でも、90過ぎの老人に入れ歯を作った時に「古い入れ歯の前歯の金歯は、ご主人が自分のために入れてくれた金歯なので、その歯だけ新しい入れ歯に移してほしい」と頼まれました。その患者さんの場合、入れ歯の機能には関係ないので本人の希望通りにしました。 しかし、テレビ局が取材に来た時にその患者さんが出演するとは夢にも思いませんでした。カメラを回しているときにカメラクルーに、これは亡きご主人の形見で・・・と話をしましたが、その部分がカットされていて後藤歯科で作ったものではないかと若い先生から誤解を受けました。その金歯が時代により異常に白い歯や、アタッチメントの部分入れ歯、最近ではインプラントに置き換わり治療?にブームが有る様な感じを受けます。
又、世界の文明の発祥の地でみられる石の巨大な建造物は、エジプトだけでなくあまり知られていないが、世界中に同じような巨石の建造物が存在します。あれはどの様に積んだのか、石のカットしてある部分の正確さ、又そこで出土する多数の人骨。中でも頭がい骨に開頭手術の痕跡が有り、術後何年も生存した形跡などを見ると、きっとあの手術は痛かっただろうと(麻薬を使ったかもしれませんが?)歯を治療する立場から推察すると恐怖感すら覚えます。
人類は昔から神様に人間の生贄を捧げたり、又色々な病気と闘かったり、時には人種同士で戦い(今でもやっていますが)、多くの痛みと苦難を乗り越えて現在の人類が地球上に異常繁殖したわけです。我々も体の一部分の感覚の鋭い歯を治療すると、治療中に起きる多くの不快な症状に巡り合います。それらの症状をよく観察すると、時には教科書にない様な症状を観察することが有ります。そのような時に脳外科医の友人のアドバイスはとても役に立ちました。
転職して治療最前線で長年色々な経験をすると、歯科の本質が理解できるようになりました。
歯が原因の痛みなのに脳外科に行く人、腫れると直ちに文句を言う人、直ちに痛みが取れないとクレームを言う患者さん。(ひどくした時は一定の経過を取らないと痛みが取れない)歯科医療は病気の治療を受けているという概念が薄いようです。中には下駄の歯入れと勘違いするような言動や「俺はお金を払う客なので何を言っても良い」という、医科とは異なりお客意識が高いように思います。(以前に患者さんと医者の関係を書きました。参考までに)あくまでも個人的な感想ですが。
すると医学的に必要なこともアレダメ!コレダメ!素人から、これをやれ!とか医療行為をするために必要なことが、クレームの為に余計な薬を処方、無駄な処置をせざるを得ない状況になることもあるかもしれません。
お腹の手術で痛いからと、文句を言う人は少ないと思います。もちろん、痛みを取るために色々な薬を使うのは当然ですが。
しかし症例によっては痛みや熱をむやみやたらと下げると、大事な症状が消えてそれらをした後で酷くなり、来院したという症例は多数有ります。
諸刃の刃になるわけです。
中には、明らかに歯が原因の痛みで脳外科を受診して、脳外科が診断を下し、これは間違いなく歯が原因であると来院することが有ります。友人の脳外科と長期にわたり、お互いに色々な情報を交換しているので良くわかります。又、歯科と医科との情報の交換は比較的少ないようです?医師に受診したケースの中には、小さな口内炎に薬を出してその後良くならず、当医院に来院したら舌癌だったということも経験しています。又痛みを取るために投薬を続けたことで、顎の骨が広範囲に溶けたケースなども診ています。長年にわたり一か所で診療をしていると医科との交流の必要性を感じます。
歯科の経営コンサルタントが、新卒の歯科医師の一生は最初に就職した医院の考え方で殆ど一生が決まると断言していました。 多くの倒産しそうな歯科医院の内部を観察した結論と拝察します。納得です。
現在は低欲望社会で、卒後みなと同じで良いのでのんびり仕事を覚えたいと言う若い歯科医師がいますが、それも人生。しかし、現在はネットで調べた患者さんの歯科に対する要望は年々レベルが上がっていることをテレビ出演で実感しました。若い歯科医師が心配です。個人的には長い医局生活をしてその後開業したので、医局員時代に基本を教えていただいたことがとても役に立っています。若いときのお金より大事な財産、それは脳みそに財産を蓄えること。それらは盗まれることが無いからです。
毎日最前線で色々な難しい症例に遭遇して、逃げないで考えていたらあっという間に以上のようなことを感じる年齢になりました。若者に知恵あらば、老人に力あらば、これらを両立するシステム、それがチーム医療の良い所。チーム医療の大切さを実感します。
Vol 53 《通行人と歯科医療》
このようなタイトルを書くと、多くの人は現在歯科医院に患者さんが少ないので、通行人をどの様にして医院に誘導するか?と思うのが一般的だと思います。
ネット・電話・郵送での集客ビジネスの案内が以前より多くなりました。週刊誌にも記載が有り、殆どの人が考えることが同じだと推察します。
しかし今回のタイトルは、若いスタッフを多数教育する中から感じたことを書きたいと思います。
たとえば通行人にポンと肩をたたいて、「あなたは今歩いていますが、どこにいくのですか?」との質問に「さあ、私は何処に行くのでしょう?」と言う返答をしたら、直ちに認知症を疑われます。
歯科診療をするという事は人間の顔かたちが異なるように、疾患も全て異なります。色々な症例を治療するときは、基本を十分に理解した上でそのバリエーションに対応することがスタッフ全員に求められます。特に歯科医師は診断を下しパラデンタルスタッフに指示するので、色々な診断・治療の手技の細かい部分まで理論的な裏付けを求められます。色々な症例を診断して処置をするときに、歯科医師に求められる大事な要素です。
ここまでの総論は誰でも理解が出来ると思います。では現実に医局で歯科医師を教育するときに肩をたたいて「今あなたは歯を削りましたが、どの様な咬合を理論的に作るのか?
又、それをすることによってどの様な事が起こる可能性が有りますか?」等の質問をすると、過去の多くの経験からとても嫌われすること間違いなし。「今やっていることの目的・理論的な意味を説明してください」には、変な質問をする意地悪な歯科医師と受け止められます。この事実は、長い間膨大な歯科医師を教育して得た多くの反応です。
ここから本題です。では「今やっているこの意味を、理論的に説明をしてください」との質問には「先輩がやれと言ったから」「教科書に書いてあったから」等の返事が返ってきますが、それは科学的な回答とは言いづらいと思います。
ある有名な経営コンサルタントが、色々な有名な会社でスタッフを個人面談した時に、「あなたは会社に対してどの様な貢献していますか?」と聞いたところ、多くが「私は課長をしています」とか「部長をしています」と自信を持って答えるようです。それらは地位であって、会社への貢献とは殆ど関係ない。本来コンサルタントが求めている返事は、「私が提案したアイディアが会社の効率を上げました」とか「スタッフの教育をして、アイディアを出し会社の経営のプラスにした」とかの具体的な話が出て当たり前。大きな会社でもそれが分からないで仕事をしている人が多いというコンサルタントの話には、とても考えさせられました。
最近、団塊の世代が退職した時に生き甲斐を失い、何をしたら良いか分からずうつ病になる人が増えているようです。 高度成長時代はだれがトップをしてもうまくいきますが、日本全体が委縮して、登山で言うなら経済の下山ではそのような考えは会社も歯科医院も通用しません。
会社の寿命は、イノベーションなしで30年位と言われています。
歯科医院もそのくらいと思います。昔は歯科医師が少なく、患者さんが多い時代で、そのようなことを考えなくても生活が出来た時代が有りました。(その時に全く逆な生活を個人的には経験していました)
しかし、簡単な仮説を立てれば、それが逆転することぐらいわかるはずです。又、技工士も少ない時代は楽でしたが、今は政府の多くの制限で若者の成り手が無く学校が閉鎖に追い込まれ、技工士は就職率より離職率が高い職業になっています。
しかし思考の軸を変えて、医師と麻酔医が一緒に仕事をしているように、歯科医師と技工士が口の中を一緒に眺め、診療計画を立て患者さんの意見を、時には不満を直接聞いて診療をすると、以前にも書きましたがデンタルマイレッジ(患者さんから無駄な時間を奪わない)がとても少なく無駄な時間・無駄な書類・車での営業のリスクが減り、高度な歯科医療をリーズナブルな費用で多くの人に治療することが出来る。これが後藤歯科医院の医療システムの一端です。
又、アイディアはほかにたくさんありますが、これらのシステムに興味を示す同業はとても少ないようです。4回のテレビ出演でも一人の歯科医師の見学者もなく反応も有りませんでした。
やはり、他人と異なるようなことをするとあまり歓迎されないようです。しかし、マスコミは確実に興味を示すようです。
これらの原点は、道を歩いていて「あなたは何処に行くのですか?」の質問です。このような歯科医療をしたいと学生時代から思っていたことが最近、より鮮明になりました。 ある意味転職したから実現したのかもしれません。
これらの考えをバックアップするシステムに、コンピューターはものすごい威力を発揮します。あの情報は何処に行ったか?あの書類は?等の人生の中で死んだ時間が激減します。(調査によると、会社の中でもそのような物探しの死んだ時間が多いというデータを見たことが有ります)
目的がはっきりしていないと、実は今流行りのAIもそれを実現する多くの歯科のデータも意味を持ちません。しかし、少し考え方の軸を変えるとそこは、まさに、アマゾンに探検に行くように楽しいです。なぜなら、ゲームと同じで多くの制約が有り、それを回避するアイディアは人工的に作られた結末のあるゲームより遥かに面白いことを最近実感しています。
しかし、現代は低欲望社会でそのようなチャレンジをするより皆と同じならそれで良し。それも悪くないが、なお同じようなやり方をする人が日本中にコンビニより増えると、それは淘汰されるのは当然だと週刊誌が何回も言っています。
転職して歯科医師になって50年以上、ようやく面白い時代が到来したことを実感しています。
Vol 52 《治療椅子と歯科医療》
産科、歯医者の治療椅子は、未開の人間は別として殆どの人が体験することです。しかし、生まれた時の記憶のある人はいないと思います。又、天気の話と歯の話も誰でも関係が有ります。
そこで歯科の治療椅子には殆どの人が、色々な思い出が有るものと思います。私も小さいときに、乳歯がムシバになり口の中がものすごくいやな匂いがして、歯医者に行きました。そして、あの初めての椅子の上で何が始まるかと、子供ながらに興味と怖さの記憶が今でもあります。(この件についても以前に原稿を書いています、参考まで)
この治療椅子は、現在だいぶ進歩したようです。中には床屋さんや、美容院の椅子のように、なんとなく雰囲気が豪華なものも有る様です。しかし、何時も不思議に思うのは歯科の治療椅子は基本的に床屋さんや美容院椅子とは異なるという事です。
それは、治療椅子という言い方に問題があると思います。昔、歯の治療は椅子に座り、ペンチで歯を抜いた歴史が有ります。歯の治療の原点は、以前にも書きました様に抜歯です。
時代が変わり、治療椅子は基本的には歯を残すための手術台です。ムシバで歯を削るという事は、硬組織の手術です。しかし、手術と言うとお腹を切開するイメージか強いですがお腹の手術は軟組織の手術です。
一般的に、病院の手術台はゴミが付きづらい様にシンプルでゴテゴテしていません。それはバイ菌が台につくことを嫌っているからです。
最近は患者さんを監視する電子機器が多数ありますが、時にはビニールで覆いをしてあります。それも出来る限りカバーして、埃が着かないように努力しています。何故それまでするのでしょうか? 抵抗力の落ちた患者さんを扱うので通常より厳密にしているわけです。歯科の患者さんも、中には抵抗力が落ちている人がいるので、基本的な考えは医科の手術台と同じ扱いになります。(最近は歯と、肺炎の関係がテレビでようやく言われるようになりました。)
歯牙は嫁サンのツノと同じで硬組織の手術です。決して石ころを削っているわけではありません。以前に説明したように中には歯の臓物が入っています。
治療中は患者さんの容態が急変することもあります。歯科は麻酔を使うことが多いので、この対策は常に考える必要があります。当医院も今までに麻酔をして患者さんが急変し、詰め物が気管に入って直ちに処置して大事に至らなかった事が有りました。これらの出来事も、椅子と言うより手術台の感覚で設備したので事なきを得たのです。もしゴテゴした椅子だったら、直ちに処置は難しかったと思います。
そのような観点から眺めてみると、歯科の治療椅子の多くが周りに色々なものが有り、見た目の綺麗さとは逆に細菌学的な観点から観察すると、見た目とは裏腹にあまり清潔とは言えません。(待合室のスリッパを気にする患者さんがいますが、それよりはるかに危険です。もしスリッパで人間が簡単に感染するなら、地球上にこれだけの人数の人間だけが繁殖することはあり得ません)
歯科医療は、患者さんの病気の治療と言う概念が薄いことは、歯科医師が歯科疾患を病気だと教育していないのが原因かもしれません。
どちらかと言うと、歯科は脳外科などと異なり見える部分が多いので、医療行為と言う感覚が鈍り、手術台をどちらかと言うと付加価値の高い、見てくれ重視で設計をしているように映ります。残念ながら医療行為と言う概念が薄いジャンルのように思います。歯科の歴史を考えると仕方がないかもしれませんが、それが原因で最近トラブルが多くなっていることも考えられます。
友人の脳外科医に言わせると、歯科は直接疾病が見える部分が多いので、疾病に対してあまり深く考えない習慣がついたのではとのことでした。脳外科は殆どが見えないので、些細な症状やらPCの画像から推測するので、かなり感じが違うようです。
空気清浄器をつけて、さらに削った歯の細菌を含んだ微細な埃が舞い上がらないように強力な口腔外バキューで吸出し治療環境を整えることは、実は口で言うほど簡単ではなく、見えない部分にとてもお金がかかります。(以前に滅菌に対する考え方を書きましたので参考まで)
しかし、患者さんと、歯科医師、パラデンタルスタッフの安全を守る対策は、以前に見えない部分に多くの機材が多数動いていることの話をしました。やはり、原点に立ちかえり医療行為として歯科医療を捉えたうえで見た目をあまり優先すると、医学的に問題が生ずるし、背反する要素を考慮して治療をする。これは技工士、衛生士とのチームを組まないと良い歯科医療は実現しません。口では簡単に言えますが、実行するととても難しい問題を含んでいます。
治療台は実は主に硬組織の手術である原点を考えると、シンプルで出来る限り余計な飾りは必要ない。しかし、予防部門なら多少デザインの為の遊びも必要かと思います。
「たかが歯、されど歯」人生の後半で噛めない事が原因で多額の医療費が発生しているように思います。長期にわたり多数の患者さんを観察した感想です。歯の治療は全身のエネルギーの入り口としてとても大事な働きをしていることをお忘れなく。(最近紺屋の白袴を経験した筆者からの感想です)
Vol 51 《転職して50年以上で感じたこと 不思議な歯の話?》
私は電気関係から転職して歯科医学の勉強を始めて50年以上になります。先日開業40周年を迎えました。毎日治療すればする程、いまでも感じることがあります。
『もし、患者さんがもう少し歯についての知識を持っていたら、歯を切って差し歯にされたり、歯を抜いて入れ歯を入れられたりしないですむだろうに…。』ということです。
生まれつき歯が無いのなら話はわかりますが、当然ながらみんな最初から歯がなかったわけではなく、もともとあった歯が後天的に何らかの原因で無くなってしまうわけです。国家試験に歯は不治の病とは出ません。
長年治療をしていても、歯を失って『どうして親から授かった大事な体の一部がなくなったのだろうか?』と疑問を感じる患者さんがほとんど見受けられません。
大抵の患者さんは歯を抜かれたり切られることには余り抵抗がないようです。しかし抜いた後の“入れ歯が高いか安いか” “保険がきくか、きかないか”最近はインプラントが、ということには強い関心があるようです。
“人間の体は物よりも大事”と学校でも教えます。人間の命は地球より重いという人もいます。“命は掛け替えのない大事な物だ”という例えです。
では何故歯が悪くなり抜かれる(体の一部が無くなる)ことに関心を持たないのでしょう?同じ体の一部でも、すぐ近くの鼻の頭が溶けたら?
同じ体の一部でも全く価値観がダイヤモンドと石ころ位異なるようです。
工場の生産ラインで不良品を作ったとしましょう。当然「何で不良品が出来たのか?」と大騒ぎになります。「たかが物、不良品を作っても、人生楽しく仕事が出来ればいいではないか。」などと言っていたら、会社は潰れてしまいます。
滑稽なことに、歯の悪い人(口の中が不良品でいっぱいの人)が会社で品質管理をやっているわけです。なるほど日本の品質管理は優れており、車でもテレビでも、なんでもいい品物が出来ます。しかし作っている人の口の中を診るとぼろぼろで、QCサークル(quality
control=品質管理)以前の問題のように映ります。
更に可哀そうなのは、一生懸命働いて気が付いたら寝たきり老人になってしまう人です。寝たきり老人には“歯が悪い” “歯が無い” “入れ歯があってもかめない”という人が多いです。(私はかつて介護保険の審査委員をしていました。そういう実例を多く目にしました) 又、後藤歯科で治療して、30-40年経過した人は、とても元気な人が多いという事実。膨大な資料をコンピュータに入力し、長期の予後から最近自信を持って言うことが出来ます。薬を飲んでも、それは噛めるのが前提です。色々な食材を取って健康になりましょう、それらは噛めるのが前提です。病気に対する抵抗力をつけることです。中には歯が無くても長寿な人もいますが、これは例外です。マスコミはお笑い番組のように大衆の受けを狙って例外を普遍的のように報道しがちです。
「元気を出して健康のために歩きましょう!」と言いたいところですが、ご飯がうまく食べられない人に元気に歩けというのは無理な話です。
では“歯を残し”しいては“健康でいるため”にはどのような知識が必要なのでしょうか?ここから先は顔かたちが一人ひとり異なるように、口の中も違うので患者さん本人のレントゲンを見ながら説明しています。効果は抜群です。全て治療後、長期に口の中を観察した結果、人生の後半で健康寿命が長い人が多くなっていることが判明してきました。
長い道のりでしたが、チーム医療でしか出来ないシステム工学から生まれた歯科治療のパラダイム変化にいち早く気付いた後藤歯科の方法に興味のある方は、ぜひトライすることをお勧めします。何歳でも遅いことはありません。人生の後半で無駄な医療費を使わないために。又、最近歯を一本失うと一般の医療費が確実に増加するという文献を目にしました。50年以上の経験から納得です。
50年以上の感想を一言に纏めました。
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